. アマゾンのドローン配送に苦情多数、停止したテキサスの町では鳥や犬が喜んでいる
アマゾンのドローン配送に苦情多数、停止したテキサスの町では鳥や犬が喜んでいる
アマゾンのドローン配送に苦情多数、停止したテキサスの町では鳥や犬が喜んでいる

アマゾンのドローン配送に苦情多数、停止したテキサスの町では鳥や犬が喜んでいる

アマゾンのドローン配送に苦情多数、停止したテキサスの町では鳥や犬が喜んでいる2025/3/29 14:00
  • WIRED
反応反応

アマゾンのドローン配送サービス「Prime Air」は、米国のどの都市よりもテキサス州カレッジステーションで強い反発に遭った。いま、ドローンが姿を消したその町では平穏とプライバシーが取り戻されている。アマゾンがこの町から得た大きな教訓とは。

テキサス州カレッジステーションに春の植え付けの季節が訪れたころ、庭師の資格をもつマーク・スミスは平穏な日常が戻ってきたことを喜んでいた。昨年のいまごろは、裏庭でピーマン、トマト、ハーブ、低木の成長をチェックする朝の日課が大きな騒音に邪魔されていた。1時間に何度も、家から800フィート(約240m)ほど離れたところ、裏の木々の向こうからアマゾンの無人配送サービス「Prime Air」のドローンがうるさく音を立てながら現れるのだ。近所の人たちはそれらのドローンを「空飛ぶチェーンソー」と呼んだが、元土木技師のスミスは別の喩えを好んだ。「隣人が1日中ブロワーで落ち葉を吹き飛ばしているようなものでした。とにかく絶え間ない騒音でした」

アマゾンは歯磨き粉や電池といった小型商品を1時間以内にドローンで配達することを10年以上にわたって目指してきたが、技術や規制上の制約もあり、実際に配送が行なわれた件数は数千にとどまっている。カレッジステーションの件もさらなる課題を浮き彫りにした。NIMBY(not in my backyard)、つまり「うちの裏庭ではやめてくれ」という地域住民の訴えが事業拡大を阻むこともありうるのだ。

ここ数年、ドローン配送会社はいずれも大きな反対を受けることなく米国各地のいくつかの町や都市で運用を始めている。連邦航空局(FAA)は過去4年間における21のドローン運用計画の環境審査を行なったが、4件以上の市民による反対意見や組織的な反対運動を受けたものはなかった──ひとつの地域を除いては。

約150件の反対意見

人口約12万5,000人の大学都市であるテキサス州カレッジステーションでは、2024年にアマゾンがその地域におけるドローンの1日の飛行回数を2倍以上に増やす提案をした際、市長ら公職者および数百人の住民が団結して反対した。FAAには約150件の反対意見が寄せられ、住宅所有者組合などの団体も反対の立場を表明した。

ある住民は、10代の娘がドローンのカメラを恐れてプールを使えなくなったと主張した(アマゾン側は、カメラは下向きでなく前方を向いていると説明)。92歳の住民は、台所の窓から見えていた鳩がいなくなったと心配した。また、多くの住民が自宅の不動産価値が下がっていると主張した。ある住民は、自分たちの平穏な暮らしが「大富豪の飽くなき金銭欲に侵害されている」と語った。

この年の7月上旬、市議会議員のボブ・ヤンシーは市長とふたりの市職員にメールを送り、アマゾンがドローンの運用場所を変えなければ住民の苦情は増え続けるだろうと訴えた。『WIRED』が入手した公的記録によると、「これまでのアマゾンのやり方は、大規模なPR戦略を展開する一方で、実際に影響を受ける地域の声を無視しています」とヤンシーは記した。「アマゾンのためにもわたしたちのためにも、この件について大きな騒ぎを起こすことなく、ただちに住民の懸念に直接対応するという確約を取りつける必要があると思います」

最終的にFAAは、住民の懸念のいくつかは根拠がない、あるいは自分たちの管轄外であり、アマゾンの事業拡大計画は環境に重大な影響を及ぼすものではないと結論づけた。それでも、住民の反発はアマゾンに伝わった。メールの記録によると、同社はドローン配送拠点近くの住宅所有者組合の連絡先情報を市当局に求めた。その後、アマゾンと組合員らの間で話し合いがもたれ、同社は7月末までに市内での拠点移転を検討する意向を伝えた(ヤンシーは『WIRED』に対し、Prime Airは地域にとって価値ある存在であり、騒音に配慮する限りは存続を望むと語った)。

夏の間にアマゾンはドローンの飛行回数を減らした。11月にはより静かな新型ドローンをカレッジステーションで全面導入し、約7.5マイル(およそ12km)の範囲内で配送を行なうことになった。家の二重窓を閉めてテレビをつけていれば、スミスの耳にドローンの音は聞こえなくなった。さらに最近では、冬の悪天候により飛行頻度がさらに減少した(アマゾンで広報を担当するサム・スティーブンソンは、ドローンの飛行は小雨でも承認されているが、悪天候はあらゆる航空機に影響を与えるものだと説明している)。

それでも、アマゾンのドローン配送拠点近くの森に囲まれた地域に住むスミスらにとって、以前の日常が完全に戻ったのは25年の1月だ。以降、アマゾンはソフトウェア更新のため全国的にドローンでの配送を一時停止している。また、9月末にはカレッジステーションの拠点のリース契約を終了する予定なので、騒音に悩まされていた住民たちは永遠に静けさを取り戻せるかもしれない。

もしFAAが審査した計画通りの最大飛行回数で配送が行なわれていれば、1日15時間、約58秒ごとにドローンがスミスの家のそばをけたたましく飛んでいただろう。しかし、現在は数週間にわたって1機も見かけていないという。

野生動物も地域に戻ってきたと住民は言う。ドローン基地の近くに住むポール・グリアは、数カ月ぶりにフクロウの声を聞いた。ドローンがいなくなったことでシカも増えた。グリアの愛犬ジョージも落ち着いている。体重50ポンド(約23kg)のブルテリアであるジョージは、散歩中にドローンを見たり音が聞こえたりすると興奮が収まらなかった。「ドローンの騒音がここまで広く問題を起こすとは誰も思っていなかったでしょう」とグリアは言う。

アマゾンのスティーブンソンは、FAAの審査でドローンの運用は野生生物に大きな影響を与えないと判断されたことを繰り返し強調し、カレッジステーションの市当局が実施したテストでもドローンの騒音レベルは市の規制値を下回っていたと述べる。「わたしたちは地域社会の声に耳を傾け、弊社の事業による影響をできる限り軽減すべく努力しています」とスティーブンソンは言う。同社が新型ドローン「MK30」を導入してからは、「どの地域からも苦情は受けておらず、市当局の反応も好意的です」と彼は言う。

騒音に対する不満を述べるカレッジステーションの住民のなかには、ドローンのテスト飛行自体には基本的に賛成する人もいる。それでも、人が多く住むエリアに配送拠点を設置したのはアマゾンの誤算だという声は多い。現在は閉鎖されているアマゾンの最初のドローン基地は、カリフォルニアの都市部を離れた商業施設が点在しブドウ畑が広がる地域だった。最も新しい3つ目の基地はアリゾナ州の静かな町に構えた自社倉庫の敷地内にある。英国で計画中の拠点も物流センターの敷地内で、周囲は主に畑と工業団地だ。「禁止されるべきだとは思いません」と、ドローン配送についてスミスは言う。「適切な運用場所と市場のニーズがあるなら問題ないでしょう。でも、地域の平穏を乱すべきではありません」

アマゾンにとってドローン配送事業の競合相手であるDroneUpやAlphabet傘下のWingはアマゾンよりも多くの配送を行なってきたが、主に商業エリアを拠点にして商店と提携している。しかし、米国最大のオンラインショッピングプラットフォームであるAmazonにとってはそう簡単にはいかない。アマゾンはいくつも物流倉庫をもっているが、そこからドローンで配達できるほど顧客の近くにあるとは限らない。

配送拠点は人目のつかないところに

カレッジステーションをドローン配送の拠点に選んで2022年に運用を始めた経緯について、アマゾンはほとんど説明していない。スミスら住民は、プライバシーの観点が関係しているのではないかと考える。アマゾンがリースした建物は木々の奥に隠れており、外から覗かれる心配が少ない。広報担当のスティーブンソンは、「徹底的なエリア分析」と「地域のリーダーとの密接な協力」に基づいて場所を選択したと説明する。

22年にアマゾンはカレッジステーションで地域住民向けイベントを何度か開催したが、会社がPrime Airの配送対象として緊急性の高い必需品ではなくクッキーなどの商品を強調したことに困惑した住民もいた、とスミスは言う。スミスら住民はドローンの騒音レベルを確認するために飛行する様子を見せてほしいと要求したが、アマゾンは応じなかった。「そして結局、実際に音を聞くことなく運用開始となったのです」とスミスは言う。アマゾンのスティーブンソンによれば、商業運用を開始した年末の時点までFAAがドローンの飛行を承認していなかったのでデモ飛行ができなかったのだという。

24 年初めにドローンの飛行回数が増えると、発着場の近くに住む人々は騒音に対する不満を強めた。住民たちは市に対応を求めたが、テキサス州の法律は自治体がドローンを規制することを基本的に禁止しているため、市当局の手立ては限られていた。

かつて市の公共事業部長として大きなプロジェクトを担当していたスミスは、これほど住民の反対を受けたプロジェクトは埋立地開発だけだったと言う。ドローンへの反発は国際メディアにも注目されたことで、市当局の懸念が高まった。

市の記録によると、市当局はアマゾンに対して移転先の候補地をいくつも提案し、現在の拠点から幹線道路を北に4マイル(約6km)ほど行ったところにあるショッピングモールなどを挙げた。しかし、24年12月の時点でアマゾンは移転計画についての進捗を何も伝えていなかったことがカレッジステーション市長のジョン・ニコルズのメールからわかる。ニコルズは『WIRED』に対し、先週の時点でもまだ何も聞いていないと語った。

アマゾンが学んだこと

アマゾンのドローン配送拠点の近くに住むカレッジステーションの住民のなかには、騒音に対する不満や不動産価値低下の懸念は大げさだと言う人もいる。「芝刈り機が初めて登場したとき、人々はどんな反応をしたでしょうか」と語るキム・ミラーは、前庭の上空を飛ぶドローンの音をよく聞いていたが、一度は自身もドローン経由で犬のおもちゃを届けてもらったことがあるという。「進歩の裏にはいくらかデメリットもあるものです」

ドローン基地の近くに販売物件をもつ不動産業者NextHome Realty Solutionsのエージェントであるレイリーン・ルイスは、住宅購入者は上空をドローンが飛ぶことは気にしていないように思えると言う。むしろ、物件がPrime Airの配達エリア内かどうかに興味をもつ人が増えているという。ルイス自身の自宅はぎりぎりエリア外だが、「クッキーや薬を買うのでも、子どもが使うペンと紙が欲しいときにでも」使えるならドローン配達を利用したいと語った。

ルイスは、アマゾンが事業内容についてもっと率直に説明し、質問や懸念をもつ地域住民のためのカスタマーサービスセンターを設けるべきだったと考える。いまだアマゾンから最新情報が提供されないために不満を募らせている住民もいる。『WIRED』の取材を通じて初めてアマゾンのドローン運航停止を知ったという人も何人かいた。

『Bloomberg』の報道によると、運航停止の前には重さ80ポンド(約36kg)のドローンの落下事故が2度あった──ひとつは雨天が原因、もうひとつはオペレーターの指示伝達ミスによるものだった。ただしアマゾンのスティーブンソンは、運航の一時停止の理由は事故でなく「安全かつ適切にソフトウェアの更新を行なう」ためだとし、FAAの承認が下りれば再開すると述べた。

それらの事故について知ったカレッジステーションの住民は新たな不安を感じた。「あのような事故があったことから、アマゾンがわたしの町を実験場にしていることがよくわかります」と、同社のドローン事業拡大に反対する10代の女性、モニカ・ウィリアムズは言う。

いまのところ、空を飛ぶドローンの数は今後も増えていきそうだ。アマゾンの競合であるWingは、テキサス州ダラスフォートワースにおける1日あたりの最大ドローン配送件数を現状の3倍の30,000件に増やすべくFAAの審査を待っている。さらにフロリダ州では、オーランドおよびタンパ都市圏にあるWalmartのスーパーストアを拠点として、1日最大60,000件のドローン配送を行なうためFAAの審査を申請中だ。

スミスらカレッジステーションの住民は、ドローンが住宅の近くでうるさく飛び続けない限り、そしてより静かな新型ドローンの開発が進むのであれば、苦情はほとんど出ないだろうと予想する。スミスはアマゾンが彼の町で貴重な教訓を学んだと考え、同社が軌道修正しつつあることを喜んでいる。彼の庭も、持ち主が手入れに戻ってきて喜んでいることだろう。

(Originally published on wired.com, translation by Risa Nagao/LIBER, edited by Nobuko Igari)

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