. 「なんにも見えない!」「野球できなかったら僕は…」脳腫瘍の手術を受けたプロ野球選手の絶望の叫び
「なんにも見えない!」「野球できなかったら僕は…」脳腫瘍の手術を受けたプロ野球選手の絶望の叫び
「なんにも見えない!」「野球できなかったら僕は…」脳腫瘍の手術を受けたプロ野球選手の絶望の叫び

「なんにも見えない!」「野球できなかったら僕は…」脳腫瘍の手術を受けたプロ野球選手の絶望の叫び

写真はイメージです Photo:PIXTA

2023年春、開幕から好スタートを切った阪神タイガース。そのとき、横田慎太郎は13時間におよぶ脳腫瘍摘出のオペを受けていた。顔はうっ血してパンパンに腫れ、まるで別人のように変わった息子を見て、母は泣き、元プロ野球選手の父は天然ボケをかました。後遺症で目の光を失いつつも野球への情熱を失わず、生への執念を燃やした横田と家族の戦いを振り返る。※本稿は、横田慎太郎さんの母・横田まなみさん視点のエピソードをもとに綴られた中井由梨子『栄光のバックホーム』(幻冬舎)の一部を抜粋・編集したものです。

脳腫瘍の13時間オペを耐えた 横田に父は「ありゃ違う人だな」

「あの……手術はどうなっていますでしょうか、始まって10時間経っていますが……」

「まだ続いています、大丈夫です。安心してください」

 その看護師さんの笑顔に人心地がつきました。気がつけば、自分の手を強く握りしめていたのか、手の甲にくっきりと爪の痕がついていました。

 夜は更けていきます。24時を回り、さすがに心配した真子(横田選手の姉)が「どうなってる?」と電話をかけてきました。私(横田選手の母)も真之(横田選手の父)も、一滴の水も飲んでおりません。トイレにも行っておりません。体の機能が麻痺してしまったかのようでした。

 時計が3時に近づいておりました。ふいに、手術中のランプが消えました。

「終わった……!?」

 待っていますと額に汗をにじませた先生が入っていらして「成功です」とおっしゃいました。その一声で、一気に体の力が抜けていきました。腫瘍はまだ初期の段階だったのですべて摘出できました。そう先生はおっしゃいました。私も夫も何度も何度も頭を下げました。

「ありがとうございます……!」

 神様、ありがとうございます。

 病院の先生方、看護師の方、皆様全員を拝みたいような気持ちでもう一度頭を下げました。手術室からベッドに横たわった状態で出てきた慎太郎は、まだ麻酔が切れておらず、昏睡状態でした。顔は鬱血してパンパンに膨れ、まるで別人のようです。その姿を見た瞬間、涙が込み上げてきました。頑張ったね、本当によく頑張ったね。偉かったね。そう言って優しく撫でてやりたい。

「ありゃ違う人だな、慎太郎じゃないよ」

 隣で真之がボケたことを申します。この期に及んで天然さを発揮しなくてもいいのに。

「慎太郎です」

「いや、顔が全然違う」

「慎太郎ですって!よく見てください」

 さすがに腹が立って声を荒らげると、看護師さんも「慎太郎さんですよ」と苦笑いをしました。病気というものは恐ろしい、思わずそう思いました。その人の顔かたちや、人間性まで、まったく違うものに変えてしまう。太陽のように健康で、愛嬌もある慎太郎は今、別人のようになって横たわっています。けれど――。

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